ニュージーランド銃乱射事件、モスク襲撃の背景にあるもの

ニュージーランド
New Zealand shootings, mosques are attacked to the extreme right ニュージーランド

2019/03/15(金)、ニュージーランド南部のクライストチャーチで銃乱射事件が発生しました。

  • 襲撃されたのはモスク(イスラム教の礼拝所)2ヶ所
  • 死者50名(3/21現在)
  • 逮捕されたのは、オーストラリア人の白人。単独犯と見られる
  • 容疑者はマニフェストを公表済。白人至上主義の極右思想。「非白人移民によって白人が追い出されようとしている」との思想に基づく犯行とみられる
  • 犯行直前、マニフェストが首相府に送付されていた。首相は容疑者の自己宣伝を避けるため、「名を語らない」と談話
  • 犯行直前、ネット上で予告。犯行の映像をライブ配信。犯行の顕示欲が極めて強い。facebookが使われる。拡散止められず。拡散させた少年を一人訴追
  • ニュージーランドの銃規制はオーストラリアより緩かった。首相、銃規制強化を明言

ニュージーランドは、多文化主義・民族融和を謳う安全な国のはずでした。この国でこれほど痛ましい事件が起こったこと、また犯行がライブ配信されたことに世界中が衝撃を受けました。

発生後の一連の動きを時系列で整理し、最後に考察にて事件の背景を分析します。

2019/03/15(金)

ニュージーランドのモスクで銃乱射事件が発生

ニュージランド南部のクライストチャーチで、モスク(イスラム教の礼拝所)が襲撃されました。

死者が40人を超え、主犯はオーストラリア人の白人であるとの報道がなされました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190315/k10011849641000.html
NZモスク銃乱射、49人死亡20人以上重傷 ネットで犯行中継か
【3月15日 AFP】(更新、写真追加)ニュージーランド南島のクライストチャーチ(Christchurch)にあるモスク(イスラム礼拝所)2か所で15日に起きた銃乱射事件で、警察は犠牲者が49人に増えたことを明らかにするとともに、容疑者1人を訴追したと発表した。
NZモスクの銃乱射テロ、死者49人に 重傷20人
ニュージーランド警察は15日、南島クライストチャーチの2カ所のモスクで同日発生した銃撃事件で、死者が49人、重傷者が20人に上ると発表した。 - (1/2)

主犯はオーストラリア白人

報道を読んで、オーストラリアと移民の関係について調べた時のことを思い出しました。増えるイスラム教徒について賛否半々という世論調査がありました。

この事件が今後与える影響について気になります。

多文化主義の未来は? オーストラリアの人口と移民について考察してみました
日本を含め、世界各地で移民が大きなテーマとなっています。そこで移民大国の一つオーストラリアを取り上げます。 まず人口の特徴.

2019/03/16(土)

極右思想「マニフェスト」

ネットに掲載された銃乱射犯のマニフェストで動機が明らかにになります。

「欧州の白人が非白人の移民に意図的に置き換えられている」という陰謀説が極右の間にありますが、これが最大の動機のようでした。

アンネシュ・ベーリング・ブレイビク(Anders Behring Breivik)受刑者(”ノルウェーで2011年に多文化主義への憎悪から77人を殺害した人種差別主義者”)にも触発されたとしています。

また、トランプ大統領の支持者だともしていますが、トランプ氏は”神聖な祈りの場が邪悪な殺害の場と化した”と事件を批判しています。

NZ銃乱射犯、ネットに極右思想「マニフェスト」投稿
【3月16日 AFP】ニュージーランド南島クライストチャーチ(Christchurch)で15日に起きたモスク(イスラム礼拝所)銃乱射事件で、49人を殺害したとされる男(28)は事件前、憎悪に満ちた「マニフェスト」をインターネット上に投稿し、ネオナチ(Neo-Nazi)思想と欧州への移民流入が動機だったことを示唆してい.
NZ銃乱射で「支援の用意」=米大統領:時事ドットコム
【ワシントン時事】トランプ米大統領は15日、ニュージーランド(NZ)中部クライストチャーチで起きたモスク(イスラム礼拝所)銃乱射事件に関し、アーダーンNZ首相との電話会談で「米国はNZと結束し、いかなる支援も提供する用意があると伝えた」とツイッターに投稿した。 トランプ氏は記者団に「神聖な祈りの場が邪悪な殺害の場と化し.

元フィットネスインストラクター

容疑者が出廷。オーストラリア生まれの元フィットネスインストラクターとのことでした。

動画:NZモスク銃乱射の容疑者が出廷 豪生まれ、ファシスト自称
【3月16日 AFP】ニュージーランド南島のクライストチャーチ(Christchurch)のモスク(イスラム礼拝所)で発生した銃乱射事件の容疑者が16日、裁判所に出頭した。

合法的に銃器を購入。NZ銃規制強化へ

容疑者は、“半自動ライフル2丁を含む5丁の銃器を合法的に購入していた” との報道がなされました。銃改造もあったようですが、ニュージーランドの銃規制がここまで緩かったとは驚きました。

首相が銃規制強化を明言します。

NZ首相、銃規制法の厳格化を明言 モスク銃乱射事件受け
【3月16日 AFP】ニュージーランド南島のクライストチャーチ(Christchurch)のモスク(イスラム礼拝所)で発生した銃乱射事件を受け、同国のジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相は16日、銃規制法の厳格化を明言した。

2019/03/17(日)

豪州議員、イスラム教徒への差別発言。生卵投げられる。

フレーザー・アニング上院議員が「事件の本当の原因はイスラム教の狂信者を受け入れたニュージーランドの移民政策にある。彼らこそが信仰の名のもとに人を殺している犯人だ」と発言していました。

オーストラリアにも、増えるイスラム教徒に対する不満が無くはありません。しかし、多くのイスラム教徒は過激派とは無縁ですし、今回はその一般的なムスリムが大勢被害に合いました。

議員は白人少年に生卵をぶつけられました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190317/k10011851281000.html
NZ銃撃は「移民政策のせい」 問題発言の豪議員、生卵投げ付けられる
ニュージーランド南部クライストチャーチのモスク(イスラム教礼拝所)で起きた銃撃事件をめぐり、同国の移民政策が原因だと発言したオーストラリアの極右議員が、若者から生卵を投げ付けられた。

乱射動画の拡散止められず。コミュニティでの事前告知が原因

犯人はFacebookで、襲撃の様子をライブ配信していました。一人称の映像で、次々と人を撃ち、さらに頭部にとどめをさしている映像が約17分間流れます。

問題は、犯人がネットコミュニティ上のマニフェストで犯行告知をしていたことでした。当局やSNS運営者が拡散を止める前に、何千人ものコミュニティ参加者がリアルタイムでダウンロードしていました。

ニュージーランド乱射動画の拡散はなぜ止められないのか 元Facebook幹部が解説
ニュージーランドで50人を射殺した犯人がFacebookライブ動画で配信した犯行動画が、YouTubeやTwitterで拡散した。各社がこうしたコンテンツを完全にブロックできない問題について、元Facebookの最高セキュリティ責任者がツイートで解説した。
モスク銃乱射を実行犯が自撮り、動画拡散 NZ警察が注意呼び掛け
【3月15日 AFP】(写真追加)ニュージーランドの警察当局は15日、同国南島のクライストチャーチ(Christchurch)で発生したモスク(イスラム礼拝所)での銃乱射事件に関連した動画をオンライン上で共有しないよう呼び掛けている。

2019/03/18(月)

容疑者祖母のコメント

容疑者の祖母がコメント “2010年に父親をがんで亡くしてからヨーロッパへ旅行に出かけた” 。このヨーロッパ旅行の中で、極右思想に感化されたようです。

また、高校時代はテレビゲームに熱中していたとのことです。ここまで周到に、犯行の様子を自撮りし、ライブ配信・拡散したヘイトクライム犯罪者はいなかったように思います。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190318/k10011851881000.html
「海外旅行であの子は変わった」 容疑者の祖母語る NZ銃乱射 - 毎日新聞
 【クライストチャーチ福岡静哉】ニュージーランド南部クライストチャーチのモスク(イスラム教礼拝所)2カ所で15日に起きた銃乱射テロ事件で、ブレントン・タラント容疑者(28)の親族が17日、オーストラリアメディアの取材に応じた。容疑者は、2010年に父親ががんで死去したのをきっかけに欧州を旅行。祖母は

アフガニスタン生まれのイスラム教徒が反撃していた

ブレントン・タラント容疑者(28)は使用した以上の武器・弾薬を保有していたことがわかっていますが、そこを食い止めたのが、アフガニスタン生まれのアブドゥル・アジズ(48)さんらだったという報道。

他にも容疑者を取り押さえようとした人々はいたようです。しかし、ニュージーランド警察もこんな事態を想定していなかった様子が伺えます。

銃撃犯につかみかかり、追いかけ……大勢の勇気 ニュージーランド銃撃
ニュージーランド・クライストチャーチで15日に発生したモスク銃撃事件で、参拝者や地元警察官による数々の勇敢な行動が明らかになった。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190318/k10011851881000.html

2019-03-19(火)

犯行直前、首相府にマニフェスト送付

犯人は、犯行直前に首相府に長文のマニフェストを送付していました。

事件の9分前に、メールで送信されたマニフェストを30人程度の政府関係者が受信していたとのことです。

ビデオ配信といい、このマニフェストの送付といい、怖ろしいほど計画されています。

動機が反移民、反イスラム思想にあるだけではなく、マニフェスト・思想表明そのものを、多くの人に聴かせるのための犯罪のようにも見えてきました。

NZモスク銃乱射事件、容疑者が首相らに「マニフェスト」送付
【3月17日 AFP】ニュージーランドのクライストチャーチ(Christchurch)にあるモスク(イスラム礼拝所)2か所で15日に起きた銃乱射事件について、ジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相は17日、事件直前に容疑者から首相府に犯行声明とみられる文書「マニフェスト」が送られたことを明らかにした.

アーダーン首相 犯人の名を語らず

Time.comによれば、ニュージーランドのアーダーン首相は、「私が彼に名を語ることは無いでしょう」と話したとしています。

容疑者は、すでに出廷していますが、弁護士を解雇し、自分で弁護すると話しています。

裁判は有罪かどうかを裁く場所ですが、容疑者が自分の思想表明の場にしようとしていることは明らかで、これに対して先手を打った形となりました。

また、facebookは犯行のライブ映像を150万本以上削除したとのことですが、4日経った後もネット上で見れる(実際、日本からも見えるものがありました)状況にあることに対し、首相は不満を漏らしています。

http://time.com/5554057/new-zealand-jacinda-ardern-mosque-shooter-name

犯行動画を拡散した少年を訴追

犯行動画を拡散した18歳の少年が、ニュージーランドで訴追されました。

“いずれの罪状も有罪なら最高で禁錮14年”とのことですので、相当重い罪に問われます。

また、犯行への直接的関与は無かったとされているのですが、保釈が認められていません。首相以下、ニュージーランド政府の強い意志が感じられます。

ただ、この動画は数千人単位のコミュニティーで配信が事前予告されていたものなので、完全削除は非常に難しい。この少年を捕えるなら、Facebookを始め、他にも訴追の必要な対象は多数いると思われます。

また、事前予告があったにもかかわらず、対処できなかったニュージーランド当局に対する非難は、いっこうに挙がってはきません。サイバー警察という言葉がようやく一般にも知られるようになってきましたが、今後の展開も重要かと思われます。

モスク銃乱射動画を拡散、18歳少年を訴追 NZ
【3月19日 AFP】ニュージーランド南島クライストチャーチ(Christchurch)のモスク(イスラム礼拝所)で起きた銃乱射事件で、犯行の様子をライブ配信する動画を拡散したとして、少年(18)が訴追された。

ニュージーランドと銃

非常に銃規制が緩い国であることが公にされてきました。(首相は今後規制を厳しくすることを明言)

筆者自身、オーストラリアとニュージーランドで銃規制にここまで差があることは知りませんでした。オーストラリアでは明確な理由無しには、銃を所有することが出来ません。しかしニュージーランドでは、最初に許可さえ受けてしまえば、保有できる銃の数量に制限が無かったということです。

実際、所有量は、4人に1丁の計算になるそうですが、当然銃を持っていない人も多いでしょうから、相当買いこんでいる人がいるはずです。

銃の自主返納も始まっているようです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190318/k10011852391000.html
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190319/k10011853021000.html

2019-03-20(水)

イスラム教と埋葬

イスラム教では、死者をなくなった後、24時間以内に埋葬すべきとしています。

こういう事件では、身元確認だけではなく、その死因や損壊状況(犯人は頭部に何度もトドメをさしていた)も今後の裁判や犯罪分析で重要になるため、難航したようです。

この日から、埋葬がはじまり、最初はシリア人でヨルダンの難民キャンプから渡ってきた親子でした。

シリアには数百万人の難民がいますが、その内ニュージーランドへ来れた人はわずかだと思います。事件の痛ましさが首相の表情からも伝わってきます。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190320/k10011855041000.html

考察

米国や欧州での同時多発テロ以降、極右思想、移民排斥、白人至上主義、ネオナチ、反イスラム教、といった言葉が、結構「表」にも登場するようになりました。

実際に、小さな犯罪はたくさん起きており、この「ヘイトクライム」にどう向かい合うかも、各国政府の懸案事項になっています。

米国で同時多発テロに直面した筆者としては、あれから20年経って、こういう事件が起こることに強い悲しみを覚えます。殺害された人たちは、イスラム過激派と無関係、というより彼ら彼女らの中に、イスラム過激思想の被害者がいるのです。

いくつか取り上げたいポイントがあります。

  • 若い犯人は、父親を亡くした後、ヨーロッパ旅行に出かけています。そこで極右思想に感化されたとみられます。現在ヨーロッパでは選挙のたびに移民がテーマとなり、移民排斥を正面から掲げる極右政党もかなりの票を集めている状況です。また、イスラム教徒をターゲットとして犯罪も起きています。
  • オーストラリア人がニュージーランドで犯行を行いました。一つは、銃規制がニュージーランドの方が緩かったということ。もう一つは、思想が平和的で各所のガードも緩かったと思われます。
  • 日本もG20を間近に控え、警戒が必要ですが、政府はさかんに「テロ対策」という言葉を使っています。テロ対策も重要ですが、今回の事件を考えるならば、今後しっかり考えるべきは「ヘイトクライム対策」です。
  • 犯行のネット配信もだんだん珍しくなくなってきました。しかし、今回は極めて用意周到に行われていました。「思想に基づく犯行」なのか、「思想を表明するための犯行」なのか、このあたりも気になります。Facebookの株価が随分下がりました。IT企業が犯行に使われるだけでなく、犯行を助長することになると、世間の目はますます厳しくなります。
  • ニュージーランド首相の対応は立派だったと多くの賞賛が寄せられ始めています。しかし、本人も直前に犯行マニフェストを送りつけられながら、犯行を止められなかったことに忸怩たる思いではないかと想像します。サイバー警察というものへの影響にも注目したいと存じます。
  • 今後も、移民問題は各国の懸案事項になると思われます。一番大きいのは雇用の問題かと思いますが、移民受け入れ先進国のヨーローッパの例で見ますと、これがアイデンティティの問題に転化してきています。「移民とどう向き合っていくのか」は難問中の難問です。各国の状況を見ながら、日本もさらなく工夫や努力が必要とされています。

終/ ニュージーランド銃乱射事件、モスク襲撃の背景にあるもの

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