新疆ウイグル自治区で起きているのは「民族弾圧」か「テロとの戦い」か

中国
What is happening in Xinjiang Uighur Autonomous Region is "ethnic oppression" or "war on terror" 中国

photo by La Priz [ CC BY-ND 2.0 ]

世界中で、民族差別や人権侵害などがテーマになるとき、ウイグル族と中国政府の関係に注目が集まっています。

中国政府は「テロとの戦い」であると説明し、人権団体は明らかな「民族弾圧」が起こっていると主張しています。

いったい何が起きているのか、またそれはなぜなのか、歴史を遡りながら分析していきます。特に大規模な入植政策に注目です。

新疆ウイグル自治区の基本情報

場所

中国北西部に位置しますが、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなどの中央アジア諸国に隣接しています。

後に、略史で説明しますが、イスラム教徒であるウイグル族が中国から独立しようとする動きは昔からありました。しかし1990年代以降、ソ連崩壊に伴い、中央アジア諸国が独立した時、新疆ウイグル自治区でも独立運動が活発になりました。

政治的には中国内にありますが、民族・宗教的には漢族より中央アジアの人々に近いものがあります。

略史

ウイグル族とは、中国北西部や中央アジアに移ってきたトルコ系遊牧民族の末裔です。9世紀ごろから定住生活を始めたと言われています。

清朝の時代に征服されて、中国に組み込まれました。

その後、「東トルキスタン・イスラム共和国」として、2度にわたって独立宣言を出しています。

しかし、現在の中華人民共和国の時代になって、人民解放軍が進駐し、1955年に自治区とされました。

面積と資源

新疆ウイグル自治区の面積は166万平方キロメートルと広大です。これは、日本の面積の約4.4倍、中国全土の約6分の1に相当します。

石油や天然ガスなどの資源が豊富です。中国政府がこれを放っておくわけはありません。それが、人口と民族構成に影響を与えます。

人口と民族

約2200万人の人口を抱えます。約6割がウイグル族、回族、キルギス族などの少数民族、約4割が漢族です。

ウイグル族は多くがイスラム教徒で、見た目も言葉も漢族とは異なります。人口は約940万人。カザフスタンやウズベキスタンなど周辺国にも居住しています。

ところで、この自治区に漢族が4割も居住しているのは、中国政府が入植政策を積極的に進めたからです。背後には、大規模な資源開発や都市開発があります。

この入植政策の結果、新疆ウイグル自治区内のウイグル族の人口比率は半分以下となりました。

 

ウイグル族と中国政府、衝突の歴史

2009年7月:区都ウルムチにて2000人が死傷

2009年6月、中国南部にある広東省の工場で、漢族とウイグル族従業員との衝突がありました。

これがきっかけとなり、区都ウルムチで大規模なウイグル族学生らのデモが発生します。

中国政府は約2万人の治安部隊を動員してこれを鎮圧します。この際、当局発表では197人が死亡し、1600人以上が負傷しました。

中国の少数民族による衝突事件としては、最大級の犠牲者を出しました。

中国は人口の約9割が漢民族と言われていますが、実際にはチベット族など56もの民族が暮らす多民族国家です。このウルムチでの事件が大きく取り上げられたのは、ほかの民族への影響が考えられるからです。

2013年~:自治区外でも事件が発生

2013年10月、北京の天安門前にガソリンを積んだ車が突入、炎上しました。40人以上が死傷しています。

2014年3月、雲南省の昆明駅で、大型刃物を使った無差別殺傷事件が発生します。29人が死亡し、143人が負傷しました。

一連の事件の実行犯はウイグル族と見られ、中国政府は独立を目指すイスラム系武装組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)によるテロ行為だと断定していますが、その実態には不明な点もあります。

2017年8月:エジプトでウイグル族留学生拘束

ウイグル族と中国政府の関係は海外へも波及し始めています。

エジプト治安当局が、現地でイスラム教を学ぶ新疆ウイグル自治区からの留学生を、多数(おそらく100人以上)拘束しました。

治安当局は拘束理由を明らかにしていません。しかし、人権団体は中国政府の要請をうけたものと指摘しています。

中国の習近平国家主席は、2016年1月にエジプトを訪問しており、160億ドル以上の経済支援を約束しています。

また、両国はテロ対策でも協力に合意していますが、過激派組織イスラム国(IS)は同年2月、中国への攻撃を予告する動画を公開していました。動画にはウイグル人とされる戦闘員が映っています。

衝突の背後にあるもの

入植による経済格差

先述の通り、新疆ウイグル自治区には豊富な石油や天然ガスが埋蔵されています。

中国政府は大規模な開発政策を進め、たしかにこの地域は経済的に発展しました。しかし、中国政府は同時に大規模な入植政策も進めました。その結果、企業や公務員の要職を、移住してきた漢族が占めていることが多いのです。

経済格差が民族対立に発展することは多いのですが、今回は特に資源を目的とした政策的な大規模入植が背後にあります。

宗教・文化に対する抑圧

中国政府は「信教の自由は守られている」と発表しています。しかし、一部の地域では、ラマダン(断食月)期間中の公務員や子供の断食や若い男性が長いひげを伸ばすこと、女性が顔を隠すスカーフをすることなどが禁止されています。

ウイグル族と中国政府の対立が鮮明になるにつれ、中国側はこれを「テロとの戦い」という形で表現し始めました。

中国当局は、国内外の独立勢力の影響で、自国内のテロの脅威が増していると発表しており、これに伴って、ウイグル族への圧迫を強めています。

その最たるものが、次の再教育収容施設です。

再教育収容施設

中国当局は、ウイグル族の学校などを改築して再教育施設を造っており、その目的を「テロなどの危険思想を矯正し、社会復帰を目指す」と説明しています。

新疆ウイグル自治区ではこうした施設が2017年、新たに約120カ所造られたと見られています。

また、中国は、この再教育収容施設に法的な根拠を設けており、自治区の人民代表大会常務委員会が、県レベル以上の自治体が思想教育のための教育矯正施設を設立できるとする条項を条例に盛り込みました。

こうした条項が通る時点で、新疆ウイグル自治区にウイグル族の自治権は無くなっていることが良くわかります。

2018年8月、国連人種差別撤廃委員会で、委員の一人が「信頼できる情報源」によるとしてウイグル族に対する大規模な強制収容が行われていると指摘しています。その中で、拘束が100万人規模に上る可能性に言及しました。

拘束されたウイグル族の証言によれば、この再教育収容施設ではウイグル語の使用が禁止され、中国語を使い、思想教育や心理カウンセリングなどが実施されます。また、狭い部屋に多くの人が押し込められ、劣悪な環境の元で政権への忠誠を誓わされるとのことでした。

こういった行為が100万人規模で行われているとすれば、これは明らかにテロ対策の名を借りた、民族弾圧ということになります。

まとめ

新疆ウイグル自治区がある場所は、もともと中国の統治下にあったわけではありません。トルコ系民族でイスラム教徒であるウイグル族が生活していました。

中国の統治下に入ったあと、衝突が生まれ始めたのは、石油資源や天然ガスの開発を目指して、漢族による大規模な入植政策が行われたからだと考えられます。

この自治区で、政治・経済の要職を占めることになった漢族と、もともと暮らしていたウイグル族の間で、対立が深まっていきました。

話をややこしくしているのは、イスラム過激派の存在です。筆者が直面したアメリカ同時多発テロの影響はこんなところにも波及していると感じます。

ウイグル族の中に、過激派に賛同する者もゼロでは無いことが分かっているのですが、それをもって、民族全体に過激派支持の可能性があると捉えるのは差別以外のなにものでもありません。「テロとの戦い」と銘打てば国際世論が味方するわけでもありません。

もし本当に中国政府が、100万人単位でウイグル族を強制収容し、再教育を施して現政権への忠誠を強制的に誓わせようとしているとすれば、これは大規模な民族差別・弾圧にあたり、国連や人権団体が問題視するのも頷けます。

多民族国家は昔から国力を維持するため、少数民族の自決・独立の動きを抑えてきました。そのために、硬軟とりまぜて様々な政策が実施されるわけですが、今回はかなり強硬で大規模である可能性があるため注目されています。

終/ 新疆ウイグル自治区で起きているのは「民族弾圧」か「テロとの戦い」か

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