移民問題をフランスの歴史から学ぶ。なぜ移民は増え続けるのか

フランス
Learn immigration problems from French history. Why do immigrants continue to increase フランス

(注:こちらの文は、2015年1月28日に作成したものに、加筆・修正を加えたものです。)

2015年1月7日、パリで、イスラム過激派とみられるグループが週刊新聞「シャルリーエブド」を襲撃しました。自由を旗印とするフランスでは、言論・表現の自由を侵害するものとして、激しい抗議行動が起こりました。

即座に、「イスラム教」と「言論・表現の自由」という問題が表面化しました。ここは巨大宗教イスラム教の根源に触れる部分なので、世界を巻き込んで尾を引く可能性があります。

しかし、もう一つ、ヨーロッパ内の「移民問題」が大きく取り上げられています。冷静に考えれば、一つのグループの犯罪なので、他の移民やイスラム教徒に飛び火するのは、おかしいのです。

しかし、この問題が一斉に広がるのは、西欧の歴史の中で、「移民」「人権」「治安」「経済」という4つのテーマが、何度も何度も複雑に絡み合ってきたからです。

日本よりはるかに深く移民問題と向き合ってきた、フランスの歴史を振り返ります。

フランスと移民の歴史

19世紀~20世紀前半:出生率の低下が始まる

フランスと移民の歴史は非常に長いものがあります。19世紀からこの国は人口の停滞に悩み始めました。労働力確保と人権擁護(庇護)の立場から、ヨーロッパ内部を中心に、多くの移民を受け入れてきました。

また、第一次世界大戦を、外国人の力を借りて戦ったという歴史があります。兵士としてはもちろん、農場や工場で多くの外国人がフランスを支えてきました。

フランス人とヨーロッパ系移民との関係は、必ずしも良好なものとは言えませんでした。「労働力の確保」と「移民の監視・管理」を両立することは難しく、景気や治安が悪化するたびに、フランス人の「外国人嫌い」が顔を出すデモや事件が発生してきました。

その一方で、ショパンやキュリー夫人など偉大な功績を残す外国人が、フランスに渡ってきたのもこの時代です。現在フランス文明と呼ばれているものと、移民・外国人との間には、切っても切れない関係があるのです。

20世紀後半(1973年まで):繁栄の30年

フランスで「繁栄の30年」と呼ばれる時代です。第二次世界大戦後、フランスは経済が成長していくにつれて、さらなる移民受け入れを国家の方針として掲げます。この間に、非ヨーロッパ系移民が増えていくことになりました。出身はアルジェリアやモロッコなど、北アフリカ、マグレブ諸国が中心でした。

「ヨーロッパ系移民」の二世たちが、少しずつフランスという国に溶け込んでいく中で、「非ヨーロッパ系移民」との 間に新たな「移民問題」が生まれ始めます。フランスは現在、西欧諸国の中で、イスラム教徒の人口比率が最も高い国だといわれていますが、まずその土台が、この時代に出来たのではないかと思われます。

1973年:オイルショック

1973年のオイルショックを契機として、経済が急速に悪化していきます。失業率が上がり始め、移民労働者は供給過剰の状態に入ります。

1974年以降:フランス政府の方針転換と家族の呼び寄せ

1974年以降、フランス政府は次のような方針を打ち出します。

  1. ①当時のEC諸国以外からの外国人労働者の受け入れを停止する。
  2. 失業している移民労働者に帰国を促進する。
  3. 滞在が許可されている移民労働者による家族の呼び寄せは認める
  4. ④雇用主の特別な要望があれば移民労働者の受け入れを認める。

どれも大きな決定ですが、③は重要です。家族の呼び寄せを認めたことで、北アフリカから女性の流入が増大します。多くの二世・三世がフランス国内で生まれる土壌が出来上がります。

1980年代以降:左派(人権擁護)vs. 右派(移民排斥)

都市郊外に、社会生活が困難な移民が集まって暮らすようになり、これが「郊外問題」として知られるようになります。警察とのトラブルも発生するようになり、「移民問題」は経済から治安の問題へと拡散していきます。

フランスでは従来、景気が悪化し失業率が上昇すると、移民を制限して対処する、というのが一般的でした。治安が悪化すれば、移民の監視を強化するという歴史も繰り返されてきました。しかし、それらを越えて、フランス人がフランスのアイデンティティを維持するため、「移民を排斥すべし」と考えるFN(国民戦線)のような右翼政党も力をつけ始めます

一方、こういった動きに、真っ向から反対するのもフランス人です。労働者の権利や人権への認識が高まるにつれて、「フランス社会の一員」として移民や貧困層の権利を擁護する考えが、社会運動を伴って活発化します。

こうして、移民に対するフランス世論が、左派政党と右派政党に分かれて対立することが繰り返されることになりました。

現在、移民・外国人の権利が随分認められるようになったと言われます。しかし、右派、左派双方の闘いには、移民問題が今も大きな焦点として登場しています。

フランスで、なぜイスラム教徒は増え続けるのか

誤解があってはいけませんが、ほとんどのイスラム教徒は、テロや過激派とは無縁の存在です。ただ、生活スタイルに、強い信念・特徴があることと、先述した「郊外問題」の中心に位置していることがポイントです。

フランス国内で、イスラム教徒が増え続ける原因は何でしょうか。

先ほどの歴史で書きました通り、1974年の政策変換において、「滞在が許可されている移民労働者による家族の呼び寄せは認める」という決定が大きかったと思われます。

北アフリカからイスラム教徒の多くの女性が、フランスに移住しました。そこで、『出生率』に差が出たのです。もともと居るフランス人女性より、イスラム教徒の女性の方が、大勢子供を産むのです。このためイスラム教徒の人口比率が上がっていくこととなりました。

現在、左派も右派も、基本的には新規の移民受け入れを停止し、不法入国者の取り締まりを行うことでは考えが一致しているようです。しかし、既に移住している人を追い出すことはもちろん出来ません。

これからのことを考えますと、フランス国内のイスラム教徒の比率は、2010年で7.5%であったものが、2030年には、10.3%まで増えると予測されています。(Drehle, 2015)

各国の動き

フランス

サッカー界で有名なジダン(ジダヌ)選手は、アルジェリア系移民の二世です。マルセイユの貧困層が広がるエリアの出身だということですが、フランスの英雄であり、アルジェリアの英雄でもあります。ルーツが混在するサッカー代表チームの活躍は、フランス、旧植民地、双方にとって一つの理想とされたのです。

しかし、成功した二世、三世が少ないことも事実です。失業、就業、健康格差、差別、学校内の対立など、まだまだ「移民問題」がなくなる様子は見えません。

一方、既存移民とその子孫を、自国の言語、社会、文化へ「統合」していくという考え方は、西欧諸国では一般的です。ただ、その度合いやスピードについて、様々な考えが混在しています。

イギリス、ドイツ

今回の新聞社襲撃事件のあと、イギリスやドイツの政治家が、即座に動いたのは印象的でした。

自国内の火薬に火がつくのを恐れているのと同時に、もしフランスで移民排斥運動が激化すれば、移民、特に不法滞在者が自国に流れてくるのが、目に見えているのです。このあたりは歴史が証明しており、移民問題が外交問題に発展しないよう警戒したものだと考えられます。

日本

日本では既に、百万人近い外国人労働者が働いているそうです。少ないとは言えません。一方、「(若い低賃金労働者が欲しい。でもいずれ自国に帰って欲しい。これ以上高齢者を支えたくない)」という本音が漏れ出ています。

口には出せないと思いますが、恥ずかしいことではありません。フランスも100年に渡って本音に沿えるよう政策を練ってきたのです。しかし、時が流れ、景気が悪化した時、「補助金付き帰国奨励策」を打ち出しても、結果は出ませんでした。むしろ大規模な人権運動に転化することになったのです。

文化の違いがクローズアップされますが、一番の問題はそこではないようです。移民は確かに外国文化を持っていますが、人間です。つまり、ほとんどの移民が、受け入れ国の文化に「合わせて」暮らせるのです。ここの部分は、受け入れ国民側が強い姿勢で臨まないと、「郊外問題」が拡大することを、ヨーロッパ人は学びました。

一般に移民が耐えられないのは、「文化」ではなく「差別」の方です。例えば、公立の団地、託児所、高齢者介護施設などは、貧しい人から優先です。どんなに競争が厳しくても人種で差をもうけては火種となります。

日本がこれからも外国人労働者を受け入れていけば、様々な悩みと直面することと思いますが、基本的に後戻りは出来ないものです。差別を繰り返せば外国人の不満が爆発するし、さりとて日本人の外国人労働者に対する不満を蓄積させれば、外国人排斥を掲げる政治家に選挙で票が集まることになります。

最悪のシナリオは、外国人排斥を掲げる政党が力を持ち、法的に日本が外国人排斥を行うことです。当然、海外にいる日本人や日本の営業所・工場などに排斥の動きが広がります。

ヨーロッパの経験から言えば、自国の言語、社会、文化へ「統合」していくという考え方が重要なのですが、果たして日本はそこを強く推し進められるのでしょうか・・・

 

References

終/移民問題をフランスの歴史から学ぶ。なぜ移民は増え続けるのか

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