ユーロの未来は? ECB(欧州中央銀行)の設立から量的緩和まで

EU(欧州連合)
What is the future of the euro? Establishment of ECB (European Central Bank) to quantitative easing EU(欧州連合)

ECB(European Central Bank、ヨーロッパ中央銀行、欧州中央銀行)を取り上げます。

ECBとは、ユーロ圏の金融政策を一元的に管理する中央銀行です。

中央銀行といえば、日本の日銀(日本銀行)や、イギリスのBOE(イングランド銀行)、あるいはアメリカ合衆国のFRB(連邦準備制度理事会)などが有名です。どれも「通貨の番人」や「銀行の銀行」として金融政策を担うわけですが、ユーロ金融政策の場合、わざわざ「一元的に」管理すると説明されます。なぜなら、ユーロ圏の経済政策が、全て国家単位で行われているわけでも、全て一元化されているわけでも無いからです。

ユーロ圏の経済政策の内、税収入や国債をもとに実施される「財政政策」は、実質国家単位で行われています。一方、通貨のコントロールで実施される「金融政策」の方は国家を超えて一元化されています。この一元化を担うのがECB(欧州中央銀行)です。

ヨーロッパは今、一部の国で国家の借金が膨れ上がり、財政政策が機能しなくなっています。また、後に詳述しますが、伝統的金融政策も十分に機能しなくなってきました。ECBは今、原則と現実の間で、大きな進路変更を迫られています。

(注: こちらは2015年3月15日に執筆したものを、一部修正して掲載しています。2015年以降の動きについては改めて執筆したいと存じます)

基本情報

本部

ECB(欧州中央銀行)は1998年6月1日、ドイツのフランクフルトに本部を置いて、発足しました。

総裁

歴代のECB総裁は下記の通りです。

  • ウィム・ドイセンベルク初代総裁(元オランダ銀行総裁)
  • ジャン=クロード・トリシェ第二代総裁(元フランス銀行総裁)
  • マリオ・ドラギ現第三代総裁(元イタリア銀行総裁)

理事会

ECBの最高意思決定機関は、ECB理事会(ECB政策理事会)です。総裁1名、副総裁1名、理事4名、ならびにユーロ圏各国の中央銀行総裁で構成されます。

理事会の決定した金融政策が、ユーロ圏各国の中央銀行を通して実施されることとなります。

ESCB(欧州中央銀行制度)とマーストリヒト条約(欧州連合条約)

ECB(欧州中央銀行)は、EU(欧州連合)の中央銀行制度であるESCB(欧州中央銀行制度)の一部です。

ヨーロッパの通貨統合を決めたマーストリヒト条約(欧州連合条約)は、ESCB(欧州中央銀行制度)の最重要目標を「物価の安定」であると定めました。また、この制度に強い独立性を与えると同時に、財政赤字ファイナンスを禁じたのです。

つまり、EUのいかなる組織、政府からも指示を受けず、基本的に政策金利のコントロールで、インフレを抑制することが本来の行動原則となりました。

しかし、この原則が、EU内の南北格差や、超低金利でも浮上しない不況によって、変革を迫られることとなったのです。具体的なニュースを追いながら、その変革を見ていきます。

転換期(2013年~2015年)の主要ニュース

2013年5月◆政策金利を史上最低の0.5%に

2013年5月2日、ECB(欧州中央銀行)は、政策金利である市場調節金利を、過去最低の0.5%としました。

このころは、最初の欧州金融危機が沈静化し始めたころなのですが、EUの失業率が過去最悪をマーク、ドイツの各種景況指数も良くないことを背景として、超低金利が登場しました。

先述した通り、ECBはインフレへの警戒心が強いのですが、ユーロ圏の消費者物価上昇率が1%前半をマークし、むしろデフレを警戒すべしとの考えが強くなっていったのもこのころです。

2013年10月◆中国と通貨スワップ協定を締結

ECB(欧州中央銀行)は、中国人民銀行と通貨スワップ協定を締結し、緊急時のユーロ・人民元間の為替レート安定を図ることとなりました。

EUにとっては、中国が最大の貿易相手国であるということがポイントです。一方、中国は人民元の国際化に向けて、通貨スワップ協定の対象を広げています。

2014年6月◆政策金利は0.15%、中銀預金はマイナス金利時代へ突入

ヨーロッパの景気見通しが暗く、政策金利が0.15%に引き下げられました。一方、中銀預金(民間銀行が余ったお金を中央銀行に置く預金)の金利を、マイナス(-0.1%)にするという異例の措置がとられることになりました。

ユーロを扱う民間銀行としては、余ったお金をECB(欧州中央銀行)に置けば、損をするわけです。ECBの目論みは、民間銀行に貸し出しプレッシャーをかけ、デフレの回避を目指すことでした。

しかし、マイナス金利まで導入するということは、金利をコントロールして経済の安定的な成長を図るという、「伝統的金融政策」が限界に達したことを意味します。

2014年7月◆ハッキングによる情報漏洩

ECB(欧州中央銀行)のウェブサイトがハッキングされ、イベント参加者(金融機関関係者や記者など)の個人情報が漏洩しました。

金融市場に影響を与える内容では無い、という発表でしたが、欧州中の銀行の情報が集まってくる金融機関であるだけに、問題視されました。

2015年1月◆ついに量的緩和を決定

量的緩和(量的金融緩和政策、Quantitative easing、QE)とは、中央銀行が、政策金利を下げるのでは無く、当座預金残高を増やすことで、市場に出回るマネーサプライを拡大し景気を刺激するものです。

平たく言えば、ECB(欧州中央銀行)がお金をたくさん作って、民間銀行が保有している国債を買い取れば、「量的緩和策を実施した」ということになります。

買い取りの規模は月600億ユーロ(約8兆円)とされ、2015年3月から2016年9月まで続けるとされました。

ECB(欧州中央銀行)とは、政策金利の調整で物価の安定を図ることに特化した中央銀行であることが、その特徴でした。しかし、本格的な量的緩和を始めるということは、大きな方針転換とも考えられます。

量的緩和について

2015年からついにECB(欧州中央銀行)が本格的な量的緩和、国債QE(中央銀行が民間保有の国債を購入すること)に乗り出しました。経済・政治両面からポイントをまとめます。

<経済ポイント> なぜ時間がかかったのか

ECB(欧州中央銀行)が欧州経済の悪化を止めるためには、金利が底を打った時点で、「量的緩和しかない」ということが、随分前から言われていました。しかし、日本はもちろん、米国や英国と比較して、その発動は随分遅れたと言われます。原因をいくつか考えてみました。

(1) ドイツとECB

 ECB(欧州中央銀行)誕生以来の行動原則、「物価安定への特化」と「財政ファイナンスの禁止(政府の借金を肩代わりしてはいけない)」という考えは、ドイツの意向に沿ったものでした。 その背景には過去のパイパーインフレに対する根強い嫌悪感があります。
 ドイツは今も国債QEという手法に批判的な人が多いのですが、ここまでデフレ感が強まってきては止むを得ないという判断だったようです。

(2) 大きい格付けの差

 日米英と異なり、ユーロ圏には現在19の国々があります。国債を購入するといっても、格付けの高いドイツ国債から、投資不適格の評価を受けているギリシャ国債まで、そのランク、発行国は実に様々です。具体的な購入方法を決め、それを継続させることは、簡単ではありません。

(3) マイナス金利

 中銀預金(民間銀行の中央銀行への預金)の金利が、マイナスのままです。そして、国債の売却は、保有している民間銀行に決定権があります。
 つまり、国債を売った資金が余ると判断した場合、民間銀行がどこかでQE(量的緩和)に応じなくなるということも、十分考えられるのです。
 上記三つの問題点は、今も解消されたわけではありません。現在のところ、量的緩和は一定の成果を上げているようですが、今後も予断を許さない状況が続きます。

<政治ポイント> 反ユーロ政党の台頭

反ユーロという言葉が、普通に使われるようになってきた背景には、ユーロ圏内の経済格差と、ECB(欧州中央銀行)が課す緊縮財政の存在があります。

ECBは、ソブリン危機(国家の財政破綻危機)に対応するため、スペイン、ギリシャなどに緊縮財政を課すことを条件として、救済策を施してきました。「財政ファイナンスの禁止」という法規に反さないようにするための、ギリギリの策です。これは、各国がモラルハザードに陥ることなく、自分で財政を立て直すべきだという、正論でもあります。

しかし、ユーロ圏内の南北経済格差は、このままでは悪化するばかりだと考える人々がいます。原因を、ユーロという単一通貨制度におく「反ユーロ政党」の台頭です。

通貨が異なっていれば、もし生産性の差によって経済格差が生まれても、このことが為替レートに反映されるため、各国通貨建て物価というブレーキが働く。しかし、通貨を統一したことで、経済格差は際限なく広がっていくと考えるわけです。

そこに、緊縮財政がのしかかる。政府による貧困対策や失業対策が十分でないのは、この緊縮財政が厳しすぎるせいだと考える。ECBは、これらの考えと、今まさに向かい合っていかなくてはなりません。

今回の量的緩和は、経済的なものではなく、政治的なものだと言う人もいます。

このまま、ECBが原理原則に拘っていては、反ユーロ政党がますます勢いを増すことになります。これはユーロシステムそのものを一部破壊する可能性を示唆するものです。

一方、ECBが、例えばギリシャの財政に甘くなりすぎれば、当然スペイン、ポルトガルは次の選挙で便乗を狙ってくる。こうなれば、ドイツがECBに愛想をつかしてしまうかもしれません

ECB(欧州中央銀行)がユーロ単一通貨制度を守りながら、「通貨の番人」としてどこまで政治圧力からの独立性を保てるのか、難しい舵取りが続きそうです。

終/ユーロの未来は? ECB(欧州中央銀行)の設立から量的緩和まで

コメント

タイトルとURLをコピーしました