南シナ海をめぐる、中国、ASEAN、米国、三つ巴の睨み合いを分析する

中国
Analyzing the relations among China, ASEAN and the United States over the South China Sea 中国

南シナ海と言えば、もともとサンゴ礁豊かな漁場と、海の交通路として有名な場所でした。しかし、今、①沿岸諸国の権利主張、②中国の人工島造成・軍備強化、③米国の「航行の自由」作戦と、三つ巴で緊張感が高まっています。

南シナ海で何が起こっているのか。政治、経済、法律各方面から、出来るだけ分かりやすく紐解いてゆきます。

地政学分析:なぜ重要なのか?

シーレーン

シーレーンとは、石油資源の海上輸送など戦略上重要な価値を持つため、安全な航行を確保すべき海上交通路のことです。

マラッカ海峡から南シナ海にかけては、世界で最も重要なシーレーンとも言われています。もちろん日本にとって最重要であることは間違いありません。

中国は、ここに人工島を建造しながら、地対空ミサイルや電波妨害装置を配備し始めています。

他にも、戦略爆撃機の離着陸訓練や、弾道ミサイルを発射できる原子力潜水艦の基地の建造についても報道されており、中国が実効支配を強めるための軍備強化を図っていることは、ほぼ明白です。

石油資源

南シナ海には豊富な海底資源が眠っていると考えられます。

特に南沙諸島における石油の埋蔵量は、110億バレルとも言われ、さらに大陸棚としてもそれほど深くないため、採掘コストは高くつきません。

海底資源の採掘技術の進歩によって、この海域自体が大きな収益を生むことがわかってきています。

漁場

数百ものサンゴ礁に囲まれたエリアがたくさんあります。伝統的にも漁場として重要ですが、その漁船を守るとして、中国が退役した軍の船などを送っています。

地元住人にとっては死活問題ですが、先述の通り、政治・経済両面で重要性が高いため、漁業を口実にした衝突の可能性がある海域でもあります。

時系列分析:どうしてこうなった?

1951年:日本が領有権を放棄

第一次大戦後、戦勝国となった日本が、南沙諸島で鉄鉱石などの採掘を始めました。

しかし、第二次大戦に敗れた後、1951年にサンフランシスコ講和条約が結ばれます。これに基づき、日本が領有権を放棄したのですが、この時、どの国が次に領有権を持つのか決められなかったのです。

その結果、ベトナムや中国が領有権を争うことになりました。

1974年及び1988年:中国とベトナムで軍事衝突

南沙、西沙諸島を巡って、中国とベトナムの間で軍事衝突が起こります。双方に多数の死者が出ました。

1982年:「国連海洋法条約」採択

海の国際法である、海洋法の制定については、長きに渡って一つの原則がありました。

それは、「公海自由の原則」と呼ばれるもので、地球のもっとも広い面積を占める海を、自由に航行出来るようにしておくことは、万人の利益に合致するという考えでした。

しかし、沿岸国の安全と利益の為に、「領海」というものをどの範囲まで認めるかということや、海底資源の採掘技術の進歩に国際法をどう適応させるかという点で、議論が重ねられてきました。

1982年に採択された「国連海洋法条約」は、ここに一つの答えを提案します。

まず、領海の幅を12カイリ(約22.2キロ)と統一します。

次に、領海の外側188カイリ、つまり、沿岸から計200カイリ(約370キロ)に排他的経済水域(EEZ)が設定されました。

これまで海洋資源の採掘は、実質その採掘能力を持つ大きな国が握っていました。しかし、国連海洋法条約は、沿岸国にその資源に対する権利があることを、はっきり認めたわけです。

当然、権利関係が曖昧であった南シナ海で、多くの沿岸国がその権利を強く主張し始めることとなりました。

1992年:中国が「領海法」を制定

各国が自国の沿岸の権利を主張しているのに対し、中国は南シナ海のほぼ全域に権利があると主張しています。

このエリアを示したものが、九段線(Nine-dash line)です。上記地図の右上から伸びる緑色の破線ですが、ほぼ南シナ海全域を覆っています。

中国は自国で領海法を定め、南沙諸島と西沙諸島の両方の領有を明記しました。

また、外国漁船が領海侵犯した場合は、軍が実力をもって退去させる権限を持つとも定めています。

これは、中国が2000年以上前から南シナ海で活動してきたので、「歴史的な権利」を有しているとの主張に基づくものですが、当然他の国々から反発が生まれます。

1995年:中国がミスチーフ環礁に建造物

1992年、米軍がフィリピンのスービック海軍基地を返還し、同国から撤退しました。

その後、中国がフィリピン沖で動き始めます。フィリピンが領有権を主張していたミスチーフ環礁に建造物を構築し、占拠したのです。

中国は同環礁を含めて、南沙諸島で少なくとも7つの岩礁を人工島にしています。

2013年:フィリピンが仲裁裁判所に仲裁手続きを申し立て

南シナ海での実効支配を強める中国に対し、ASEAN諸国の中で特に対立していたフィリピンが動きました。

オランダ・ハーグにある仲裁裁判所にこの問題の仲裁を依頼したのです。

2015年:米国が「航行の自由」作戦開始

米国が中国の動きに対して牽制をかけ始めました。

南沙諸島で人工島にしたスービ礁周辺に、米軍イージス駆逐艦を航行させる「航行の自由」作戦を展開します。

先述の通り、中国は領海法で、許可なしに軍艦が航行することなど認めてはいませんから、米中がここで衝突する危険性をはらんでいます。

2016年:仲裁裁判所が中国の権利主張を退ける判決

中国は「歴史的な権利」として、九段線に囲まれた海域に権益があると主張してきたわけですが、ハーグの仲裁裁判所がこれに法的根拠が無いとの判決を下しました。

しかし、中国はこの判決を「紙屑」と呼び、受け入れてはいません。

一方、完全勝訴となったフィリピンですが、新たな動きが出ます。新任のドゥテルテ大統領が、中国の習近平国家主席との会談の中で、この問題を棚上げしてしまいます。

会談の中で取り決められたのは、中国がフィリピンに対して停止していたバナナの輸入再開やインフラ整備として二兆円規模の経済支援を行うことでした。つまり、海域問題を棚上げするかわりに、経済支援を取り付けたのです。

2018年:日本の海上自衛隊、潜水艦を南シナ海へ派遣

海自の対潜戦訓練は、通常日本の周辺海域で行われます。しかし、2018年9月、中国が軍事拠点化を進めている南シナ海に潜水艦を派遣するという、一歩踏み込んだ行動に出ました。

狙いはもちろん、公海の「航行の自由」を強くアピールし、日本の商船が多く行き交う海域で、中国を牽制することでした。

海自の潜水艦は、ベトナム中南部にあるカムランに入港。日本とベトナムの防衛協力強化を印象づけることも行いました。

日本の動きに中国が動じるとも思えませんが、米軍は「航行の自由」作戦を継続しており、今後の展開から日本は目が離せません。

まとめ

南シナ海は、世界の政治、経済両面で非常に重要な位置にあります。

「歴史的な権利」を主張する中国と、「国連海洋法条約」に基づき排他的経済水域(EEZ)を守りたいベトナム、フィリピン、インドネシアなどの沿岸国、そして「航行の自由」作戦を強める米国が、睨み合っています。

トランプ米政権は「航行の自由」作戦実施の頻度を上げ、戦略爆撃機も南シナ海に展開しています。

これに対し、中国は国際法や国際裁判といった枠組みを回避し、沿岸国との二国間合意を優先しようとしています。

例えばフィリピンでは、仲裁裁判所の判決を棚上げすることで、灌漑(かんがい)用水や鉄道など中国が出資する大規模事業にこぎつけました。また中国からフィリピンへの観光客も急増しているとのことです。

習近平国家主席は、中国を『世界一流の海洋強国』にすることを掲げていますが、南シナ海で二国間合意が得られれば、国際的な『中国脅威論』にもブレーキがかけられるというわけです。

東南アジアにはASEANという枠組みがありますが、ここは全会一致を原則としています。中国はこの原則を逆手にとって、親中国の沿岸より、南シナ海の実効支配を強化していきます

一方、米国は黙っていません。米国防総省が、「環太平洋合同演習」(リムパック)への中国の招待を取り消しました。(中国は2014年からリムパックに加わっていました。)

米国はさらに米太平洋軍を「インド太平洋軍」に改称し、海洋進出を強める中国に対抗する姿勢を鮮明にしています。

現状では、中国の海軍力で米軍に対抗することは難しいので、両者の直接対決を現実的なものと考えることは難しいと思われます。しかし、スーパーパワーに挟まれた中小国が、幾多の悲劇に見舞われてきたことも忘れてはなりません。

ASEAN諸国は一枚岩ではありませんが、現状、南シナ海での自国の権益より、中国との穏便な関係性と巨額の経済支援を優先する方向に動きそうな気配があります。

米国と日本としては、このシーレーンを中国に独占支配されることは、政治・経済両面でなんとしても避けなくてはなりません。

米中間の対立を深刻化させないように取り計らいながら、このシーレーンの自由な航行を確保するという難しい舵取りが続きそうです。

終/南シナ海をめぐる、中国、ASEAN、米国、三つ巴の睨み合いを分析する

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