なぜ? マクロン仏大統領の華々しい誕生から「黄色いベスト」デモまで

フランス
why? From the spectacular birth of President Macron until the "yellow best" demo フランス

2017年、フランスで史上最年少の大統領が誕生した時、世界は華々しくそれを報じ歓迎していました。

しかし、それから1年半後、パリで「黄色いベスト」を着た民衆が、「マクロン辞任」を求めて大規模デモを起こしています。

いったい何があったのか。時系列に沿って追いかけてみます

1977年12月21日◆エマニュエル・マクロン生まれる

エマニュエル・マクロンは、1977年、医師の家庭に生まれました。子供の頃は文学少年で、彼の『言葉の巧みさ』は、このころから培われていたようです。

青年期、エリート養成の国立行政学院で学び、官僚から投資銀行へ。企業の合併・買収で名を上げ、「金融のモーツァルト」と称されました。なお、このエリート経歴が、後々やり玉に上げられることになります

その後、政界入り。2014年、オランド氏のもと経済相に引き立てられ、「マクロン法」と呼ばれる経済競争力の強化法をまとめます。

しかし、政治運動「前進」を立ち上げて、せっかく得た閣僚のポストを辞任。「右でも左でもない」と、既存政党の擁立ではない独自大統領候補となったのが、2016年11月でした。38歳の若さで思い切ったことをやったものです

経歴を見ても、文学、哲学、金融、経済、と素養の幅広さがわかります。

2017年05月07日◆39歳でフランス史上最年少大統領に

フランス大統領選の決選投票で、マクロン氏は、右翼・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏(48)を破り、史上最年少の大統領となることが決定します。

そもそも、この決選投票が、2大政党に属さない独自候補(マクロン氏)と右翼政党党首(ルペン氏)によって戦われている事自体、普通ではありませんでした

パリ同時テロや失業率の高止まりなどに対し、既存政党が国民の信頼を失い、新しい指導者が求められていたということになります。

両者対決の構図を簡単に書くと、

マクロン氏

  • 中道
  • 親EU(ユーロ圏の統合深化)
  • 全てのフランス人のための政策を(支持者の集会に移民系の人々が)
  • エリート出身、都市部で強い支持
  • 史上最年少大統領を目指す

ルペン氏

  • 右翼
  • 反EU(通貨をフランに戻す)
  • 反移民
  • 初の女性大統領を目指す
  • トランプ大統領当選、英国EU離脱国民投票など、自国第一の流れに

マクロン氏は勝利したとはいえ、敗れたルペン氏の得票率が、3割を超えたことも看過出来ません。また全体の投票率は低く、有権者の3分の1が両候補いずれの支持も拒みました

実に華やかな大統領誕生でしたが、その裏には、フランス国民が自国の政治に対し、信頼感を持てなくなっていたことがわかります。

2017年07月14日◆トランプ米大統領との不思議な関係が始まる

この日、パリで行われた軍事パレードに、マクロン仏大統領は、トランプ米大統領を招待しています。

39歳の仏大統領が、71歳の米大統領と会談するのですが、どこか親子のような雰囲気を醸し出していました。

もちろん、米国第一主義のトランプ大統領と、グローバリズムを掲げるマクロン大統領は、考え方が全く違います。しかし、マクロン氏が「人たらし」と呼ばれるのが、よく分かる一幕でした。記者会見でも同時通訳を通さず、英語で会話し、周りを驚かせます。かつてこんなフランス大統領はいなかった気がします。

2017年08月09日◆国内政策で支持率が下がり始める

外交面では、トランプ米大統領の他にも、プーチン露大統領とも会談。冷え込んでいた関係の修復に乗り出し、大国と渡り合える存在感を示します。

その他、各国の「仲介役」としても活躍しますが、内政で支持率が落ち始めます。

EUは、各加盟国に対し、財政赤字をGDPの3%以下にするよう求めています。

フランスがこの基準を満たすために、マクロン大統領は、学生や低所得者への手当や助成金を減額する『緊縮策』を発表します。しかし、これが強い反発を招きました。

また、国防予算の削減をめぐり、制服組のドビリエ統合参謀総長とぶつかり、彼を辞任させてしまいます。マクロン氏の権威主義的なイメージがフランス国民の間に広がっていきます。

結果、就任後64%あった支持率が36%まで急落。この後やってくる労働組合の強烈な反発が、このあたりから始まっていました

2017年09月21日◆国連総会で多国間主義を訴え

マクロン大統領の国連総会での演説は、まさに「反トランプ」でした。

主な内容をまとめると

  • 多国間主義、対話の重要性を強調
  • 地球温暖化対策「パリ協定」への米国参加呼びかけ
  • 北朝鮮との対話の重要性を強調
  • イラン核開発抑制の見返りに経済制裁を解除(核合意)

上記を全てひっくり返すと、米国第一と不干渉を掲げている人物、トランプ米大統領の見解に一致します。ここまで正反対のことが言えるのも、マクロン大統領ならではでしょうか。大国にモノを言うフランスの、面目躍如といった感がありました。

2018年05月05日◆富裕層を優遇しているとして、約4万人がデモ

マクロン大統領は、就任から1年で、公約として掲げたいくつかの内政政策を実行しています。

一番大きなものは、労働法の改正でしょうか。フランスの労働法は労働者保護の色が濃い。当然、投資銀行出身のマクロン大統領からすれば、これが企業活動の足かせになっていると写ります。

一般に、高い経済成長が望める時代は、手厚い社会保障や労働者保護の政策が打ち出され、市場への政府介入が増えることが多い。ところがフランスは、長く経済成長の低迷に苦しんできました。そこで、過去の多くの大統領が、この『労働法改革』にトライしてきたのですが、国民の支持が得られないとして、断念してきた経緯があります。

マクロン大統領は、このテーマに取り組み、企業による解雇や労働時間の調整などを容易にし、海外企業の誘致のための法人税率低減も決定しました。若い大統領はこれらを、『断行』していきます

その結果、『富裕層優遇』として、大規模デモが発生していくことになりました。

2018年10月16日◆内閣改造に求心力低下が現れる

この日、内閣の改造が行われ、実質空席となっていた内相のポジションに、カスタネール氏(52)が付きました。

ちなみに、内相は移民政策や治安問題を担当する極めて重要なポストなのですが、それだけに、前任者が政権を去ったあと、人事が難航していました。

その他、計4人の閣僚を入れ替えますが、有名政治家から固辞されるなど、うまくいきません。

マクロン大統領は「私の態度や率直な物言いを不快に思う人もいたのかもしれないが、批判は聞こえている」とテレビ演説で語りかけます。しかし、前任内相のコロン氏の言葉、「謙虚さが足りない」が突き刺さっている格好となります。

2018年11月17日◆「黄色いベスト」デモがスタート

マクロン政権が掲げた、燃料への増税措置を受け、ガソリンが高騰します。

フランスでは、地方での生活に車は欠かすことが出来ず、これが20万人を超えるデモを生みました。

参加者は、緊急時に身につける「黄色いベスト」を、ドライバーの象徴として着用しました

2018年12月03日◆パリで「反マクロン」デモが本格化。一時400人を拘束

いよいよ、「黄色いベスト」デモが本格化し、パリで放火が始まりました

マクロン大統領は『暴徒の混乱』として取り合いませんが、多くの市民が『庶民に冷たい大統領だ』として反感をつのらせます。

ガソリンと軽油の増税は、環境政策の一環なのですが、こうなるとフランス市民は聞く耳を持ちません。積み重なってきた、高い失業率や低所得への不満が、一気に爆発してしまいました。

海外からの投資呼び込みなど、富裕層や企業寄りの政策と、低所得者や学生にこれまでの政策の見直しを求める。この2つを、どちらも急ピッチで進めてきたことがわかります。

2018年12月04日◆燃料増税の凍結を発表

マクロン政権は、ここへ来て、妥協の姿勢をみせます。燃料だけではなく、電気とガス料金の値上げもこの冬は凍結すると発表しました

しかし、燃え上がるデモの火は消える様子がありません。低収入への不満を口にする農家や、入試改革に反対する高校生まで、参加者が広がっています。

「マクロン辞任」を叫びながら、国歌を歌う人々に、治安部隊が催涙弾を発射する様子が、世界を震撼させました。

まとめ

国際的には一定の評価を得ているマクロン仏大統領が、なぜ、これほど大規模な国内デモにさらされているのでしょうか。

いくつかの要因が浮かびます。

  • テロによる不安の高まりと、高失業率の中で、もともとフランスの政治が国民の信頼を失っていました
  • 経済の低成長が長く続くと、それまでの手厚い社会保障や、労働者保護の仕組みに、改革が求められます。しかし、国民への説明が十分ではありませんでした
  • 環境対策として、燃料税を高くし、電気自動車などへのシフトを促すことは、各国とも懸案事項です。しかし各国政府が、国民の反対を畏れて二の足を踏んできたところ、マクロン政権が先陣をきる形となりました

こうして書いてみると、日本人としても他人事とは思えない内容です。なぜなら、フランスの抱えている内政の問題は、多くの先進国が抱えているものと同じであり、デモの根底にあるのは貧富格差に対する不満です。マクロン大統領は、若い推進力で改革を急ピッチで行い、そこに火をつけてしまいました。

一方、国際面では、ナショナリズムやポピュリズムの盛り上がりの中で、国家間の対話を重視し、大国間の架け橋となっていることは特筆に値するかと思います。トランプ米大統領と個人的な親密感を保ちながら、「反トランプ」で国連演説を行う。こういった魅力はこれからも存分に発揮して欲しいところです。

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